ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画「PERFECT DAYS」を観ました。ネタバレあり。
ほぼ全編にわたり渋谷区の公共トイレを清掃する主人公(役所広司)の日常を描いた作品で、このような映画が全国的に配給されるのは珍しいなと思ったけど、調べてみるとどうやら日本財団と渋谷区による16人のクリエイターによるデザインされた公共トイレを設置する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトをPRする目的で作られたものらしい。
こう書くと映画は宣伝色やメッセージ性が強いのはでないかと思うかもしれないが、全くそんなことはなくて何かを強く示唆するわけでもなかった。脚本も俳優の演技も徹底的なまでに抑制されていて、本当に主人公・平山の清掃員としての変わらない毎日をただひたすらに眺める映画なのだ。
仕事が終わってから安い定食屋に通い、週末は古本屋や居酒屋に通う。趣味も写真、読書、音楽鑑賞といたって平凡なものでいわゆるインスタ的な丁寧な暮らしとは程遠いが、美しい映像と通勤途中の車で流れる音楽が作品に彩りと深い余韻を与えている。
寡黙にストイックなまでに仕事をこなす平山が時折見せる微笑み。その瞬間に見ている我々は平山がささやかな幸せを感じていることを確認する。これがこの映画で描きたかった「完璧な日々」なのかと。しかし物語の終盤で平山が実家から逃げてきて過去が明らかになりその後は色々とあるのだが、最後に見せたあの表情は何だったのか。それまで作品に抱いていたものが一変する。
平山の笑みはもしかすると抑圧されたものからの解放を表現していたのかもしれないし、何か他の理由があるのかもと思った。最後、人によって様々な感想を抱くと思われるが少なくとも単純に満ち足りた幸せの日々だけを描きたかったのではないように思えた。受け手にも考える余韻を与えてくれるとても素晴らしい作品だと思う。
余談だが、作品中に何度が登場する桜橋は先日散歩したばかりだけど素晴らしいロケーションだ。あと平山のアパートの構造が気になる。押上とか向島の辺りかと思ったら亀戸がロケ地らしい。